第2章 遺影

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「ねぇ、もしかして、岸本くん?」  虚ろな目を、少しだけ上げると、女性二人が俺の前に立っていた。ショートカットの女性の方が、声を掛けてきたらしい。  知らない顔。派手な化粧。  なのに、俺の名前を知っている人間。 「やっぱりそうだ。岸本和也くんだよね! 小学校が一緒だった、和田(わだ)美智子(みちこ)! 分かる?」 「えっと⋯⋯」 「岸本くんまで来てると思わなかった。私のことも覚えてる? 川崎(かわさき)千夏(ちなつ)だよ。同じクラスだったでしょ」  もう一方のロングヘアの女性が、喪服に似合わない満面の笑みを見せる。  そうだ。彼女たちのことは覚えている。  同じ小学校だった、和田と川崎。 「いつもテレビで見てるよ! さっき、ちょうど話してたの。この間、テレビでやってた、岸本くんのドラマの話。ねっ、千夏」 「そうそう、『レイスタ』もすごい人気だよね。まさか岸本くんが、アイドルになるなんてねぇ。私の仕事場に、岸本くんの大ファンだっていう人がいるんだけど、同級生だって自慢しちゃったんだ。ねぇ、お願い。サイン貰えないかなぁ~」 「え~、それなら私も欲しい。いいでしょ、岸本くん!」  彼女たちは、元々サラの友達だった。  だが小学4年に、サラを仲間外れにした。  そのことにサラが心を痛め、どう接したらいいのか分からないと話していたのを覚えている。結局、サラが引っ越すその日まで、彼女たちの無視は続いたままだった。  ふざけんなよ。  サラが死んだのに、あんな笑顔を作って。  俺は無言で二人の横を通り過ぎると、そのまま出口へと向かった。  そのあと二人が何かを言っていたようだが、その声はもう耳には届かなかった。
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