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「ねぇ、もしかして、岸本くん?」
虚ろな目を、少しだけ上げると、女性二人が俺の前に立っていた。ショートカットの女性の方が、声を掛けてきたらしい。
知らない顔。派手な化粧。
なのに、俺の名前を知っている人間。
「やっぱりそうだ。岸本和也くんだよね! 小学校が一緒だった、和田美智子! 分かる?」
「えっと⋯⋯」
「岸本くんまで来てると思わなかった。私のことも覚えてる? 川崎千夏だよ。同じクラスだったでしょ」
もう一方のロングヘアの女性が、喪服に似合わない満面の笑みを見せる。
そうだ。彼女たちのことは覚えている。
同じ小学校だった、和田と川崎。
「いつもテレビで見てるよ! さっき、ちょうど話してたの。この間、テレビでやってた、岸本くんのドラマの話。ねっ、千夏」
「そうそう、『レイスタ』もすごい人気だよね。まさか岸本くんが、アイドルになるなんてねぇ。私の仕事場に、岸本くんの大ファンだっていう人がいるんだけど、同級生だって自慢しちゃったんだ。ねぇ、お願い。サイン貰えないかなぁ~」
「え~、それなら私も欲しい。いいでしょ、岸本くん!」
彼女たちは、元々サラの友達だった。
だが小学4年に、サラを仲間外れにした。
そのことにサラが心を痛め、どう接したらいいのか分からないと話していたのを覚えている。結局、サラが引っ越すその日まで、彼女たちの無視は続いたままだった。
ふざけんなよ。
サラが死んだのに、あんな笑顔を作って。
俺は無言で二人の横を通り過ぎると、そのまま出口へと向かった。
そのあと二人が何かを言っていたようだが、その声はもう耳には届かなかった。
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