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母さんがサラの母親とまだ話をしている。
俺の姿に気付いた母さんが声を掛けた。
「どうしたの、和也。やだ、顔色がすごく悪いわよ。気分でも悪いの」
「母さん、悪いけど先に帰るわ」
無表情で絞り出した声を出し、鉛のような身体を引き摺りながら、葬儀場を後にした。
――それから、どうやって自宅に帰ったのか、全くと言っていいほど覚えていない。
ベッドに倒れ込むように横になると、次に目を覚ましたときは、次の日の朝だった。
レースのカーテン越しに、朝の爽やかな光が、否が応でも、部屋に差し込んでくる。
望んでいなくても、求めていなくても、時間は勝手に過ぎて、次の日を迎えてしまう。
そうやって、サラの「生」からどんどん遠ざかって行く。過去を置き去りにしたまま。
全く現実感がなくて、涙も出ない。
サラが死んだ現実を悲しめないまま、記憶から消えていってしまうのだろうか。
脳裏にこびりついて今も離れないのは、葬儀場で白い花に囲まれていた、あの「遺影」の眩しい笑顔だった。
この世に、もう、サラはいない――。
朝日はいつもと変わらずに眩しく輝きを放って、俺を照らしているっていうのに。
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