第2章 遺影

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*** 《 1999年3月25日 》 ――あの日、俺は卑怯者だった。  小学4年生の3月25日。  桜の花が散り始めていた頃だった。  サラが東京へ引っ越してしまうその日に、俺たちは最後に会う約束をしていた。  だが弱虫で卑怯な俺は、サラの家の隣にある郵便局の大きなポストに隠れて、サヨナラも言わずに別れてしまった――。  別れの日から数ヶ月前の、学校の帰り道。  サラから引っ越すことを打ち明けられた。  サラの両親が離婚することになって、母親の実家のある東京へ行くことになったと。  すっかり気落ちして肩を落とすサラに、どんな言葉を掛けたらいいのか全く分からず、黙って話を聴いてあげることしかできなかった。   それから数日後のある日――。  クラスの友達が、学校裏の空き地で見つけた、四つ葉のクローバーの話をしているのを耳にした。四つ葉のクローバーを見つけると、幸せが訪れるということも。  ――サラ! 四つ葉のクローバー探そうよ! 俺、協力するからさ!   その日のうちに、サラを誘った。  サラならこの話を喜んでくれるはずだと、勝手に思い込んでいた。サラの笑顔を取り戻すために、俺は必死だったんだ。  だがサラの反応は悪く、暗い表情を浮かべたまま苦笑いを見せて、静かに頷いた。  サラは信じていなかったんだ。  願掛けをしても、厳しい現実は変わらないと思ったのだろう。
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