第2章 遺影

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*  3月の修了式当日になっても、四つ葉のクローバーは見つからなかった。  そのことへの負い目からか、しばらく意識的にサラを避けてしまっていた。  探そうと言い始めたのは俺なのに、合わせる顔がない。  だが修了式の帰りに、体育館の入口で、突然サラに引き止められる。  久しぶりに見るサラ――。  いつもと変わらず、大きな目をクシャッと細くさせた笑顔。  サラの笑顔に何度勇気をもらっただろう。  それなのに思わず目を逸らしてしまった。 ――和也くん! あのね、3月25日の午後に東京に行くことになったから、13時頃に家に来て。渡すものがあるの。   少し照れた顔で、それだけを告げると、すぐに立ち去ってしまった。  何も言えなかった。  いや、言わなかったのかもしれない。  サラに情けない所を見せたくなかった。  3月25日にサラは東京へ行ってしまう。  大好きなサラが。  あの笑顔も、もう二度と見られない。  俺はそれでいいのか。  このままサヨナラをしてしまっても。  繰り返し頭の中で自問自答するだけで、自分から動く勇気など、そもそもなかった。
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