第1章 誕生日 (1回目)

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 慢性的な疲れが蓄積した身体は、全身を倦怠感が包んで離れてくれなかった。  でも今夜は、頬を柔らかに撫でる夜風が吹いているからか、昼間のうだるような暑さと比べて、だいぶ過ごしやすい。  今日は久々に、早く退社ができた。  意識的だったか、そうじゃなかったかは分からないけれど、珍しく仕事がスムーズに進んだし、いつもみたいに変な仕事を誰かに押し付けられるようなこともなかった。  こんな日は身体を休めるためにも、できるだけ早く帰宅する方がいいってことも、よく分かっている。  でも今夜だけは、どうしても一人で過ごしたくなかった。  そうだ。  最近会えてない友達に連絡してみようか。  いや、でもこんな遅くに、突然電話されても、ただ、困らせるだけか――。  結局、ぼんやりと浮かぶ月を見上げながら、駅へ向かう道をトボトボと歩いていく。  行き交う多くの人々は、通りを一本入った、路地の暖簾に消えていった。  そうか。今日は金曜日だったか。  私の視線は、近くの一軒の店で止まる。  両脇を高いビルに囲まれて、ひっそりと佇む店構えは、あまりに場違いで違和感がある。  でも、実は、だいぶ前からこの店の存在は知っていたし、ここを通るたびに気になっていたんだ。  外観の様子からすると、バーかもしれない。  ちょうどそこに来た一人の男性が、店の扉に手をかけて、躊躇なく引いた。   開かれた扉の隙間から、温かなオレンジ色のあかりが漏れて、歩道を薄くオレンジに染めると、すぐに暗闇へと戻す。  中は、どんな感じなんだろう。  私の好奇心が、ムクムクと膨らみ出す。   しかし、あの眼鏡を掛けた男性、どこかで見たことがあるような。知り合いかな。  今日は、気疲れするような知り合いには、できれば会いたくない。  でも、少し離れた席に座れば、顔を合わせずに済むはずだよね。入ってみようかな。
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