第2章 遺影

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*  結局クローバーも見つからず、サラとも話さないまま、最後の日を迎えてしまった。  3月25日。  あと15分で13時になる。   サラの家へと重い足取りで向かっている間に、春の細かい雨が頬に落ちてきた。  沈んだ気持ちにちょうどいい。  雨に構うことなく歩いた。  サラの家の隣にある郵便局がだんだん見えてくると、俺は急に怖気付いた。  サラに何もしてあげられなかった。  最後の、最後まで、また泣かせてしまうかもしれない。  そう思った途端、とっさに身体が動き、目の前にあった大きなポストの陰にしゃがんだ。  そこで小さくなって息を潜め、耳を手で塞いで、目を閉じた。  あまりの恐怖に逃げ出してしまったんだ。  だからサラが来た気配すら感じなかった。  そのあと、ようやく耳に届いてきたのは、サラが激しく泣きじゃくる声と、サラを無理やり乗せた車が走り去るエンジン音だけだった。 ――あの日、俺は卑怯者だった。  本当は、サラの悲しみを取り除いてあげられないのが怖かったんじゃない。  サラに幻滅されるのが怖かったんだ。  だから尻尾をまいて逃げ出した。  自分の弱さから。  みっともなくたって、情けなくたって、別れの言葉くらい伝えておけば良かった。  こんな形で、サラとの永遠の別れが訪れてしまう運命が決まっていたのなら。  ずっと、サラに会いたいと思っていた。  心の片隅にいつもサラはいたのに、会いに行かなかった。本気で会おうと思えば、会えたかもしれないのに、ずっと自分に言い訳をして先送りにした。  あの日のことを謝りたかった。  それなのに、もう遅い。  大好きだったサラとの久々の再会は、「遺影」の姿だった――。 
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