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結局クローバーも見つからず、サラとも話さないまま、最後の日を迎えてしまった。
3月25日。
あと15分で13時になる。
サラの家へと重い足取りで向かっている間に、春の細かい雨が頬に落ちてきた。
沈んだ気持ちにちょうどいい。
雨に構うことなく歩いた。
サラの家の隣にある郵便局がだんだん見えてくると、俺は急に怖気付いた。
サラに何もしてあげられなかった。
最後の、最後まで、また泣かせてしまうかもしれない。
そう思った途端、とっさに身体が動き、目の前にあった大きなポストの陰にしゃがんだ。
そこで小さくなって息を潜め、耳を手で塞いで、目を閉じた。
あまりの恐怖に逃げ出してしまったんだ。
だからサラが来た気配すら感じなかった。
そのあと、ようやく耳に届いてきたのは、サラが激しく泣きじゃくる声と、サラを無理やり乗せた車が走り去るエンジン音だけだった。
――あの日、俺は卑怯者だった。
本当は、サラの悲しみを取り除いてあげられないのが怖かったんじゃない。
サラに幻滅されるのが怖かったんだ。
だから尻尾をまいて逃げ出した。
自分の弱さから。
みっともなくたって、情けなくたって、別れの言葉くらい伝えておけば良かった。
こんな形で、サラとの永遠の別れが訪れてしまう運命が決まっていたのなら。
ずっと、サラに会いたいと思っていた。
心の片隅にいつもサラはいたのに、会いに行かなかった。本気で会おうと思えば、会えたかもしれないのに、ずっと自分に言い訳をして先送りにした。
あの日のことを謝りたかった。
それなのに、もう遅い。
大好きだったサラとの久々の再会は、「遺影」の姿だった――。
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