第2章 遺影

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*** 《 2020年9月23日 》  サラの葬儀から2ヶ月近くが経っていた。  と言っても、祭壇に手を合わせることもできずに帰ってきたのだが。  深い絶望と喪失感に襲われて、少しでも早くあの場所を離れたかった。  また現実から目を背け、自分の感情とも向き合わずに、背中を丸めて逃げた。  だから俺の心は、葬儀のあの日に置き去りになったまま、時間だけが無情に過ぎていた。  葬儀の次の日に、母さんから電話が来た。  真っ青な顔で帰ったから心配だったと。  急な仕事があってさ、と言葉を濁した。  余計な心配をさせまいと明るい声を出して、母さんが俺の異変に気付いてしまう前に、早めに電話を切った。   あれからいつにも増して忙しく、スタジオ収録、雑誌取材と撮影、レコーディングに舞台の稽古、その合間に、次回作の映画の台本を頭に入れる日々。  分刻みのスケジュールが入っている。  まるで戦場のように、気が休まることのない、忙しい日々を送っていた。  
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