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第3章 再会 (2回目)
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《 2010年10月29日 》
今宵もいつものバーの、いつものカウンター席に着く。それからイタリアワインを片手に、持参した2冊目の小説に手を伸ばす。
今日の本はどちらも恋愛小説。
その日の気分で自宅の本棚から選んだ。
一つは、昔からの愛読書。
もう一つは、最近知った作家さんの新刊。
10ページほど読んだところで人差し指を挟み、ワインを一口含んだ。
氷がグラスの内側にカランと当たる音と、淡く流れる心地の良いジャズのウッドベースの音以外は聴こえてこない。
店内の時が微睡むみたいにまったりと流れているのを感じる。
ここだけにしかない空気のようなものが、この店には存在する。
例のイタリアンバー、FUTURO PASSATO。
イタリア語で『未来過去』という名前の店。
この店に訪れたのは、これで5回目。
一度目は先月の私の誕生日だった。
仕事に追われていて、一人暮らしで、ディナーに誘ってくれるような彼氏もいない大人の誕生日なんて、こんなもんだろう。
『 お誕生日おめでとう。22歳だね。身体には気をつけるのよ』
実家を出て一人暮らしをしてからは、誕生日になると、まるでコピペのようなメールがお母さんから届いた。
――私は、大丈夫だから。
あまりうるさく言われるのを私が嫌がることをお母さんは知っていて、短いメールにしていることも知っている。
今年も一人で過ごすつもりだった誕生日に、予期せぬ出会いがあった。
不覚にも彼の前で大泣きして申し訳ないと思っているけれど、真剣に私の話に耳を傾けてくれてたことが本当に嬉しかった。
心にこびり付いた苦しさがポロポロと剥がれ落ちていくようなそんな感覚だった。
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