第3章 再会 (2回目)

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「よく本をお読みになられていますが、ひょっとして書く方もお好きですか?」 「はい。子供の頃から児童文学が好きで、そういったジャンルのものを時々書いています」 「児童文学ですか。素敵ですね。差し支えなければ、どんな内容のものを書かれるのか、お訊きしても構いませんか」 「ちょうど書いている途中の作品なんですが、主人公の男の子が大好きな女の子の命を守るために、過去や未来へ行って大冒険をしながら成長していく物語を書いています」 「ずいぶん面白そうな物語ですね。完成したらぜひ読ませていただきたいです」 「もし完成したら⋯⋯」 「楽しみにしていますね」  本当は、3ヶ月前から書きかけの作品が机の上に置かれたままになっている。  時間がないことを言い訳にして、自宅の机に向かうことが少なくなった。  今は出版社の仕事の方で、今年の8月にチリで起こった鉱山事故で奇跡的に助かった人の記事を書いている。  ようやく記事の仕事を担当させてもらって、充実しているといえばそうなのかもしれないけれど、本当にやりたい仕事ではない。  やりたい仕事ができている人はごく僅か。  そんなこと分かってる。  今の私ができるのは、目の前のことを頑張るだけ。まだまだ先は果てしなく長い。 「お客様、お見えになられましたよ」  マスターがいつもよりもさらに柔和な笑顔をこちらに向けていた。  私はその言葉の意図がまだ読み取れず、しばらくポカンとマスターを見つめていた。 
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