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どこからか硬い靴の音が規則正しく聴こえ、その音がすぐ近くでフッと消える。
勢い良く振り返ると、そこに立っていたのは岸本さんだった。
あの日と同じ笑顔を見せて。
「こんばんは。この間はどうも」
微笑んだまま頭を軽く下げた岸本さんは、なぜだか前よりも大人っぽく見えた。
髪型や服装のせいだろうか。
少しくすんだ色のブラウンのロングジャケットに、ベージュのタートルネック。
以前会った時よりも落ち着いた色味の髪は無造作に下ろしていて、そこに色気のような大人っぽさを感じるのかもしれない。
でも笑顔は前と変わらず少年のようだった。
「隣、いいかな」
「もちろん。⋯⋯どうぞ」
彼は慣れた手つきでサッと手を挙げ、前回と同じウイスキーのロックを頼んだ。
彼はウイスキーが好きなんだ。
水で割ったハイボールですら飲めない私にとって、ウイスキーは大人の飲み物というイメージが強い。
「あの、この間は迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「迷惑だなんて。すごく楽しかったよ。普段は人に見せないサラちゃんの素顔が見られたってことは、かなりラッキーなんだね」
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