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「もし、嫌じゃなかったら」
岸本さんは照れて俯いた。
まるで甘く溶けてしまいそうな表情。
生キャラメルの甘くとろける、ねっとりとした食感のような。
その表情は、軽々しくデートに誘うような人が見せるものとは違った。
誘い方も強引ではなく、私の気持ちを大事にしてくれるような安心感さえ感じられる。
まるで私の中に警戒心が初めから存在しないような錯覚さえ覚えた。
この微笑みにYES以外の返事を言える人がいるのだろうか。私の中のYES以外の選択肢が、いつの間にかどこかへ消えてしまった。
「嫌なんて、そんな。私で良ければ」
「ホント! 良かった。断られたらどうしようって、内心ドキドキしてたんだよね」
彼はまたニコッと少年のように笑い、私の頭をポンポンと触った。
――あっ。
この感覚。
前にもあった――。
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