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「そろそろ戻らないと。さっきからポケットの中でずっと電話が鳴っててさ。呼ばれているみたいだから、悪いけど先に行くね」
「あっ。私のことは気になさらずに」
「今度のデート、楽しみにしてる。じゃあね。おやすみ」
「おやすみなさい」
岸本さんは席を立ちながら、また私の頭をポンポンと優しく触った。
やっぱり懐かしい感覚がする。
でも誰にされたのか思い出せないな。
二人で過ごした時間と彼にデートに誘われた余韻に浸っていたからか、岸本さんが入口とは真逆の店の奥の方へ向かって行ったことに、私は気付いていなかった――。
「今日はもう少し飲んで行かれますか」
彼の甘い笑顔を思い出してニヤニヤしている私に、マスターが訊いた。
「もちろん」
「では、アマレットをもう一杯」
「お願いします」
もう少しだけ、このフワフワした気持ちに酔っていたくて、甘いアマレットのグラスにそっと手を伸ばした。
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