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《 2020年10月30日 》
事務所の会議室に俺とメンバーの伏見、それからスタッフが数人集まっていた。次のアルバムの曲決めのためだ。
もう少しで会議が始まる時間が近付いてきたからか、書類の束を抱えたスタッフが忙しなく目の前を行き交っている。
会議室の椅子に深く腰を掛けて、イヤフォンから流れる曲を何となく聴いていても、頭の中はサラのことばかりが浮かんでいた。
耳元で響く曲の歌詞とサラの笑顔が重なって、さらに思いが胸に込み上げる。
身体はここにあるのに、魂がどこかへ行ってしまったかのようにカラッポだった。
バーの灯りに照らされた彼女の艶っぽい笑顔に色気を感じた。
――だが、サラなのに、サラではない。
すぐ手が届く場所にいても、届かないようなもどかしさに身を焼かれるようだった。
隣にいるサラと話していても、どこかで大好きだった昔の彼女を思い出してしまう。
複雑に入り混ざる思いに胸がちぎれてボロボロになりかけていた。
バーで夢を語っていた22歳の彼女と、亡くなる直前の彼女には、どんな心の変化があったのだろうか。
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