第4章 祈り (3回目)

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「勿体ない」なんて言葉は、まだ使える物を捨ててしまう時くらいにしか使ったことがない。  だから同期の子が掛けた言葉の真意も、本当はよく分からなかった。 ――ある日の仕事帰り。  いつもは前を通り過ぎるだけのデパートのショーウィンドウで、ふと立ち止まる。  うっとりするくらいに可愛い洋服が、ライトに当たってキラキラと輝いていた。  自分では決して選ぶことのない初雪みたいに真っ白なロングコートと、赤ちゃんのほっぺの色みたいな淡いピンクの膝丈ワンピース。  勿体ないと言われないのは、こんな服をサラッと着こなせる人なのかもしれない。  そう思ったら、私の足は自然と店内へ向かっていた。  あんなに勇気を出して買ったのに、ずっとクローゼットにしまったまま、袖を通す機会もなかった。  長い間眠っていた新品の服たちは、今日のデートのために私のところへ来たんだ。  今日の私は、勿体なくはないかな。  岸本さんに可愛いって思ってもらいたい。  でもやっぱり遊園地なら、スカートよりパンツの方が良かったかもしれない。  バーの隣の店のショーウィンドウに全身を映して首をひねる。  
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