111人が本棚に入れています
本棚に追加
「勿体ない」なんて言葉は、まだ使える物を捨ててしまう時くらいにしか使ったことがない。
だから同期の子が掛けた言葉の真意も、本当はよく分からなかった。
――ある日の仕事帰り。
いつもは前を通り過ぎるだけのデパートのショーウィンドウで、ふと立ち止まる。
うっとりするくらいに可愛い洋服が、ライトに当たってキラキラと輝いていた。
自分では決して選ぶことのない初雪みたいに真っ白なロングコートと、赤ちゃんのほっぺの色みたいな淡いピンクの膝丈ワンピース。
勿体ないと言われないのは、こんな服をサラッと着こなせる人なのかもしれない。
そう思ったら、私の足は自然と店内へ向かっていた。
あんなに勇気を出して買ったのに、ずっとクローゼットにしまったまま、袖を通す機会もなかった。
長い間眠っていた新品の服たちは、今日のデートのために私のところへ来たんだ。
今日の私は、勿体なくはないかな。
岸本さんに可愛いって思ってもらいたい。
でもやっぱり遊園地なら、スカートよりパンツの方が良かったかもしれない。
バーの隣の店のショーウィンドウに全身を映して首をひねる。
最初のコメントを投稿しよう!