第4章 祈り (3回目)

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 そうだ。  岸本さんに聞いておけばよかった。  今日はどこの遊園地に行くかを――。  実は、遊園地デートは今回が初めて。  大好きな「フェアリーパーク」でさえ、家族や女友達としか行ったことがない。  来年で開園30周年を迎える「フェアリーパーク」はどの世代にも人気の遊園地。  高校生までは、毎年必ず数回行くほど、私にとって特別な場所だった。  でも今まで付き合ってきた人はインドアな彼氏ばかりで、デートと言えばもっぱら図書館か映画館。だから手を繋いでアトラクションに乗るようなデートとは全く無縁だった。  岸本さんみたいに、仕草は大人っぽいのに時々少年のような顔を見せる男性に惹かれたのは初めて。  彼の初遊園地デートの相手が私で良かったのかと、また少し不安になる。  彼女さんはいないのかな――。   空を見上げると、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。  朝の爽やかな空気を大きく吸い込むと、全身に心地よい風が行き渡っていく。  天気が良くて、本当によかった。  いい一日になるといいな。   岸本さんの笑顔を思い浮かべたら、トクントクンと心臓が高鳴り始めた。  その鼓動の音が指先まで響いていく。  何度か深呼吸をして気持ちを静めていると、とこからか熱い視線のようなものを感じた。   視線を感じたのは一台の車からだった。  その車に寄りかかる人影。  逆光が差していて、はっきりと見えない。  目を凝らしてみると、相手がこちらに向かって手を振っているのが分かった。  岸本さんだ――。  光の隙間から覗く、イタズラっ子みたいな笑顔。早く彼のことがちゃんと見たい。  気付けば、彼の元へと走り出していた。 
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