第4章 祈り (3回目)

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 二人を乗せた車は、海がよく見える高速道路をしばらく走り続けていた。  高層ビル群の合間を抜けると、空がより広く高く見える気がした。  遥か先まで続く空は、高く抜けるように澄み渡り、とてつもなく大きなものに包み込まれているような安心感がある。  それなのに、私の心はあの空の彼方へ吸い込まれそうなくらいに不安定だった。  バーで知り合った岸本さんと車内の狭い空間にいるという実感があまりない。  まるで夢を見せられているみたいで、自分事として感じられなかった。  だから時々チラッと横目で、すぐ隣にある横顔を何度も確認してみる。  同じ空間、同じ時間の流れの中で過ごしているだけなのに、不思議と私たちを取り囲む全てのものが甘く感じるのは自惚れだろうか。  胸のドキドキを悟られないように、いつもよりも自然と口数が多くなっていた。  頭に思い付くことを言葉にして、岸本さんと話のキャッチボールをしているうちに、「会話のリズム」が合うことにふと気付く。  テンポよいやり取りに心地良さを感じ、また次の言葉が出ると言った具合だった。  なんだか不思議な感覚。  彼と会うのは、まだ三度目なのに。
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