111人が本棚に入れています
本棚に追加
「たぶん忘れられないだろうね。俺も同じような経験があるから分かるよ」
岸本さんは小さなため息をついた。
そして遠くにいる誰かを思い浮かべるような目をしている。
なぜそんなに苦しそうな顔をするの。
きっと、深く愛し合っていたのに別れなければならなかった存在がどこかにいるんだ。
彼の目の先にいる存在に嫉妬した。
彼の笑顔を曇らせるその相手に。
もうこれ以上踏み込んではいけない。
瞳の中に他の女性が映っている人を好きになるなんて、悲しい思いをするだけ。
今ならまだ引き返せる――。
まだ何も始まってないんだから。
恋焦がれてしまう前に気持ちを鎮めればいいだけ。もうこれ以上、傷つきたくない。
一緒に出掛けるのは今日が最初で最後にしよう。友達として楽しめばいいんだから、。
「もうすぐ着くよ。ほらあそこ」
岸本さんが顔を向けた先には、よく見覚えのある大きな観覧車が見えた。
数年ぶりの大好きなフェアリーパーク。
でも本当なら嬉しいはずなのに、素直に喜べない自分がいた。いつか大好きな人とのデートで来たいと思ってたから。
気持ちの置き場に困ったまま、「本当だ。観覧車」と、精一杯の作り笑いを見せた。
最初のコメントを投稿しよう!