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店内を一通り見回してみる。
飴色のような色彩に、全てのものが包まれていて、すえた古木の香りが漂う。
その場の空気を大きく吸い込んでみる。
懐かしい感覚がしたのは、この心癒されるような香りのせいかもしれない。
「いらっしゃいませ」
低い声が、静かな店内に響く。
パリッ張りのあるバーテン服に身を包んだ、白髪混じりのバーテンダーが、カウンターの向こう側から私に微笑む。
しかし、その優しげな笑顔がすぐに薄れてしまうほどの存在感を放つ、彼の背後に並べられた驚くほどの種類のボトルに、私は圧倒されて、一瞬にして言葉を失う。
まるで、お酒の博物館だった。
標本がギッシリと展示されているコーナーの迫力に、限りなく近い。たぶんこの中には、相当貴重なものもあるのだろう。
ラベルが黄ばんでいるものや、金色のボトル、魚の形をしているものまで見える。
店自体の年季はかなりのもののようだが、オレンジ色の照明が鈍く反射するほど丁寧に、床も、椅子も、磨き上げられている。
まるで「不思議の国のアリス」の物語の世界へ迷い込んでしまったかのように、天井がとても低く作られている。
きっとこんなこだわりも、お客の居心地の良さを作り出す工夫なのだろう。
カウンターの反対側に5席ほど作られた、テーブル席にいるお客は、ジャズのBGMとお酒を思い思いに味わっているようで、時々、そのお客のグラスの中で、氷がカランと揺れる音が聴こえた。
ますますいい雰囲気。
想像通りのお店。いや、それ以上かも。
私より先に店へ入った男性は、長いカウンターの一番奥の席に、一人で座っていた。
きっと店の常連客なんだろう。
カウンターに座る男性から、一番遠く離れた、入口から入ってすぐの席に着いた。
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