第1章 誕生日 (1回目)

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 カウンターにメニューが置いてあった。  それに軽く目を通しただけで、ここがイタリアンバーだということが、すぐ分かる。  コーヒーを気の置けない仲間と立ち飲みをする、イタリアンバールのような場所ではなく、ゆったりと席に着いてお酒を楽しみ、至福の時間を過ごすバーらしい。  看板すらも掛かっていない店に思い付きで入ることは、これまで人生で一度もなかった。  でも最近、悲観的な自分を変えたいとも思ってもいたし、ちょうどいい機会なのかもしれないと思った。   店の名前は、「FUTURO PASSATO(フトゥーロ パッサート)」。  イタリア語で、「未来 過去」という意味。  父の仕事の関係で、生まれてから小学校に上がるまでは、北イタリアのロマーニャ州というところで育った。  だから一応、イタリア語は「分かる」。  もう長い間使ってないから、さすがに「話せる」とは言えないけれど。  イタリアと言えば、温暖な気候だと思われがちだけど、私の生まれた地域は、日本のように寒暖差の激しい気候の地域だった。  そのお陰か、日本に来てから体験した、身体が溶けてしまうほどの酷暑の夏も、手足が動かなくなるほどの厳寒の冬にも、私の心や身体が戸惑いを感じることはなかった。
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