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「岸本さん。イタリアのヴェネツィアでは、
『ため息橋』というところがが有名なんです。その橋の下をゴンドラが過ぎるときに恋人同士が⋯⋯」
茜色の空を見つめたままそっと呟くサラの空と同じ色に染まった頬に触れ、優しく唇を重ねた。
柔らかなサラの唇の感触。
そこから伝わってくる体温と鼓動。
身体の奥の方が熱を帯びる。
この温もりは幻なんかじゃない。
軽く腰を抱き寄せると、それに合わせてサラは身体を委ねた。
言葉も交わしていないのに、唇からサラの思いが流れ込んでくるように伝わる。
お互いを大切な存在だと確認するような長く、甘いキスだった。
ちょうどそのとき、乗っていた小舟が「祈りの橋」の下をくぐる。
そっと唇が離れ、目を合わせて微笑み合う。
サラの笑顔はいつもよりも綺麗だった。
「ヴェネチアでは、橋の下をもぐるときにキスをして永遠の愛を誓うんだよね」
「⋯⋯はい。ご存知だったんですね」
「知っていたよ。だから誓ったよ」
「えっ⋯⋯」
サラの笑顔がパッと消え、一気に戸惑いの表情に変わる。そして、さらに不安そうな顔へと変化していった。
サラの気持ちが分からない。
心が近付いたり、離れたり。
まるで海に浮かぶ小舟のように。
サラとの永遠の愛を誓えば、この時代に俺を連れてきた強力な力は、俺たちの運命を変えてくれるんだろうか。
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