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《 1996年5月 》
――和也くん、聞いて! 今週末の誕生日に、お母さんが遊園地に連れてってくれるんだ~! いいでしょう~!
学校の帰り道にサラが見せる笑顔は、俺の大切な宝物だった。
サラとは「ある出来事」がきっかけになって、毎日一緒に帰るようになった。
だが本当はそれよりもずいぶん前から、サラのことが気になっていた。たしか小学校に入学してすぐの頃だったと思う。
――淡い初恋だった。
だからサラの気を引こうとおどけてみたり良いところをわざわざ見せようとしてみたりしたが、全てが無駄に終わっていた。
サラは休み時間になると、一人で本を読んでいるような物静かな子だった。
小学校に入る前は外国に住んでいたらしいと噂で聞いたし、遠足には見たこともないような食べ物を持ってきて、美味しそうに頬張るサラの姿を目にした。
そんな神秘的な所に惹かれたんだと思う。
毎日休み時間も下校後も友達とサッカーばかりして真っ黒に焼けている俺とは、真逆の世界にいるような子だった。
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