第1章 誕生日 (1回目)

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 メニューの文字を、端から指で辿りながら、一つ一つ確認していく。  ワインの種類が、とにかく多い。  メニューの見開きのページに、びっしりと書いてあるワインの名前は、ざっと見ただけでも100種類はありそうだ。  お酒の名前がイタリア語と日本語の両方で書いてあるのは、在日イタリア人も来店するからなのだろうか。カクテルやビールも、聞いたことのない名前のものばかり。  さっきのバーテンがカクテルを作って、テーブル席の客に届け、カウンターに戻ってくる途中に、ちょうど目が合った。 「この店は初めてでいらっしゃいますね。もしお飲み物を迷っておられるのでしたら、コンチェルトというイタリアワインはいかがですか。お客様にピッタリだと思います」    その言葉に、多少の戸惑いを感じる。  私を見ただけで合うワインを勧められたこともそうだが、それ以上に、今の私が、バーテンにはどんな風に見えているのだろうかと、漠然と不安になった。  誕生日を迎えた今日でさえ、疲れているように見えてしまってはいないだろうか。 「では、それをお願いします⋯⋯」  勧められたワインをお願いして、何となく、カウンターの端に座る男性へ目を向ける。  あれ。掛けていた眼鏡を外している。  やっぱり誰かに似ている気がするな。  でも、どうしても思い出せない。  まるで、背中のかゆい場所に、わずかに手が届かないみたいで、なんだかもどかしい。  それか、鍵を失くした日記にも似てる。  肝心の鍵がないから、中に書かれた秘密が誰にも分からないような、そんな感覚。
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