第4章 祈り (3回目)

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 俺たちの控え室から、誰かの声が廊下まで漏れ聞こえている。  だが部屋に人の姿はなかった。 ――本日の特集は、来年で30周年を迎えるフェアリーパークの⋯⋯。  部屋に据え付けられたテレビがつけっぱなしになっていたようだ。  画面からは、女子アナウンサーの明るい声が聴こえてくる。  ニュース番組の特集コーナーらしい。  ちょうど、昨日サラと行った「フェアリーパーク」の特集だった。  秋の行楽シーズン前だから、ファミリー層狙いの特集を組んだのだろう。   少し気になってテレビの前で足を止める。  画面には、客を乗せて水路を優雅に進んでいく小舟の映像が流されている。それに乗った女性レポーターが早口で紹介をしていた。  ここでサラとキス、したんだよな。  指で軽く唇に触れる。  サラの唇の感触や手の温もりを思い返してみても、なぜかあまり現実味がない。  この手で確実にサラを抱き締めたのに。  サラと行ったフェアリーパークでは動きを止めていた腕時計の文字盤の針は、いつも通りに時を進めている。  結局のところ、サラと「平行線上」の関係だってことをまた思い知らされる。
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