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「⋯⋯お天気もつといいですね。今日はどの辺の海まで行くんですか」
「そんなに遠くないかな。そうだ。もうそろそろ敬語ってやめない。俺、彼氏だしさ」
「えっと。彼氏⋯⋯でしたね」
「ほら~。敬語禁止」
もう私、彼女だったんだ。
私自身も意識していないうちに。
それでいいのかな――。
また心の周りに厚い雲が覆い始める。
まだ心構えもできていないのに。
岸本さんが彼氏だなんて信じられない。
でもあの熱っぽい目に見つめられると、無闇に鼓動が高鳴ってしまう。
それこそが答えじゃないだろうか。
いくら考えても迷ってばかりで出せない答えなら、彼を信じて心を委ねてみれば自分の気持ちが分かるかもしれない。
「ねぇ、下の名前で呼び合わない」
「名前⋯⋯えっと」
「あぁ。まだ、俺の名前教えていなかったね。カズヤ、岸本和也。呼んでみてよ」
「カズヤ、っていうんだ」
「えっ、聴こえなかったよ、サラ」
「⋯⋯カズヤ」
「ふふっ。はい、よく出来ました」
今日の彼はちょっぴり強引で、予想不可能の連続だった。
でも私が積極的ではないから、このくらいリードしてくれる男性の方が一緒にいて安心できるのかもしれない。
これまでに付き合った男性たちは、比較的穏やかな人が多かった。と言っても、二人だが。
デートの場所を「どうする?」って訊いても、「どうしよっか?」って逆に訊き返されてしまったり。意見を求めると「サラがいいならいいんじゃない?」と言われてしまう。
だからいつも彼氏の本当の考えが分からなくて不安になることが度々あった。
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