第5章 江ノ島 (4回目)

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 潮騒を聴きながら海岸沿いの道をしばらく走っていると、岸本さんが何も言わずにハンドルを左に切った。  そして大きな建物の駐車場に入っていくと車を止め、エンジンを切る。  着いたようだけど、一体どこだろう。  何かの施設みたいだけど。  見覚えがあるような――。  辺りの風景と頭の片隅に残る記憶を必死に照らし合わせてみる。  「ここって⋯⋯」 「水族館だよ。新江ノ島水族館」  ――だからか。  神奈川の小学校にいたとき、遠足でこの場所に一度だけ来たことがある。  行く前からとても楽しみにしてた。  でも4年生の遠足の当日、どうしても見に行きたかった水槽に行けなくて悔しい思いをしたあの水族館。  あの日のことは、よく覚えている。   どうしても見たかった水槽。  今もあるかな――。  でもなぜ、この水族館に来たのだろう。  海に来たなら、海岸散歩とか周辺のお店に行ったりするかと思っていたのに。  何も言わずにここに来たのなら、彼に何か考えがあるのかもしれない。
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