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最悪の誕生日
窓際の席で、ただ淡々と、ひとり口を閉ざして、レストランのガラスを見つめていた。
いくら店内の照明を抑えていても、店の中庭の木々にLEDの装飾が施されていたとしても、室内の方が明るいから、ガラスには自分の顔が映ってしまう。
途方に暮れたような、今にも泣きそうな私。
ちらちらと、そんな私を窺っている従業員たち。
予約席として、私がここに着席する前から二人分のプレイスマットとカトラリーが用意されていたのに、時間が来ても、それをとうに過ぎても、対面には誰も腰掛けない。予約の電話をした人が来なくて、私も勿論だけれど、お店の人たちも困惑しているのがありありと伝わってくる。
専用のキャンドル。祝い事用のアレンジメントの籠。そして、二人揃ってから食事をして、デザートを配る時にはプレゼントが出てくるはずだった。
彼は懸命に隠そうとしていたけれど、このお店の売りだから、私だって知ってたんだ。
三十分が過ぎ、一時間が過ぎ。合い間に食事の確認を取りに近付こうとしては躊躇する店員たち。
居た堪れないのは、彼らも私も同じ。
恥ずかしくて、今すぐに席を立ちたくて。それでも、もしかしたら……あともう五分も待っていればあの人が現われるかもって、ただひたすら耐えていた。
本当は解ってた。
あの人は、来ない。くる筈がない。
だけど、それでも、もしかしたら、ひょっとして。
ほんの僅かな期待が残っていたから、閉店時刻までそのまま身じろぎ一つ出来ずに居た。
ああ、なんて最低な、史上最悪の誕生日だろう。
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