いつもの半日

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いつもの半日

気落ちしたまま学校前にバスが着き、降車して正面玄関から入ると下駄箱で上靴に履き替えた。 耳に残っている昨夜のラジオの声を脳裏に反芻しながら教室に向かう。 里奈は進学クラスの2-A。 教室に入るとクラスメイトたちが何やらざわついていた。 (なんだろう……?) となりの席の友人が里奈の登校を確認すると駆け寄ってきた。 「りなりな!」 里奈のことをニックネームで呼んだのは立花(たちばな)愛夏(あいか)だ。 「愛夏ちゃん、どうしたの?」 いつもと違う友人の様子に訝しげな声で聞き返すと、自分の席に着いた。 「担任の菊地(きくち)先生がそろそろ産休に入るでしょ? 代わりの先生が新しく来るんだって」 「ああ……。でも来週からでしょ?」 私はそう聞いてる、と言外に含み鞄から教科書類を出しながらすでに話し半分で聞いた里奈に、ふふんと鼻を鳴らしながら腕を組んだ愛夏は新情報、と顔を里奈に寄せた。 「その代理の先生が今日、ちょこっとだけ視察に来るんだってさ。雰囲気を知っておきたいからだって」 「……なんでそんな情報知ってんの?」 「愛夏さまにわからぬことはない」 「ふーん……」 「まあ、職員室で小耳に挟んだんだけどね」 ペロッと舌を可愛く出しながら悪びれず笑った愛夏をやっぱりね、と納得した表情で見た里奈は雰囲気を知りたいからと視察に来る先生にわずかながら好感を持つ。 (代理でくるだけなのに……クラスを知っときたいって、すごい真面目な先生なんだなぁ) 感心しながらイケボの先生だといいな、と密かに思う里奈だった。
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