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いつもじゃない半日
今朝のざわつきよりさらにグレードアップしたざわめきが2-Aを包んでいた。
「はい。みなさんし・ず・か・に」
静かに、の部分で言葉の数だけ手を打ち鳴らした担任の菊地は隣を手のひらで示した。
「こちらにいらっしゃるのは来週から私の産休代理で来られる松永友紀先生です」
松永は紹介されると同時にペコリと頭を下げる。
「じゃあ松永先生、軽く自己紹介をお願いします」
「はい。……え~来週からしばらく皆さんの担任になる松永です。科目は現代文。……何か質問は?」
教壇から見回す生徒の中に、口を開けて松永を凝視している者がいた。
視線は絡んでいるが、どうやら驚いているのだと気づいた松永は誰何する。
「はい。右から2列目前から5番目の席のあなた。お名前を教えて下さい」
ビシッと指を差され、ますます目を見開いたのは里奈である。
「え? え? あ……」
差されているのは自分だと気づいた里奈は静かに席を立ち、小さな声でフルネームを名乗った。頬を染めながら。
「谷川さんね。座っていいですよ」
カタンと椅子に座った里奈は両手で顔を覆って、机を見つめる。
(先生だったなんて……不審者扱いしちゃった……。おまけに───)
ちらっと教壇に視線を向けて松永を盗み見た。
(……やっぱり。この声、間違いない。あのバス停の人だ)
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