いつもじゃない半日

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松永は生徒から質問を受けて、にこやかに答えていた。 地元であること。この高校の出身であること。臨時講師として教員登録していること。 止まることのない質問攻めに、さっき不審者として連れて行かれそうになった、と屈託なくなく笑って初顔合わせは和やかに終了した。 すべての授業を受け、ホームルームも終えたクラスメイトは部活に行くものがほとんどで帰宅部の里奈はたいてい1人で学校を後にする。 今日も1人バスを待っていると、後ろに人の気配を感じた。 何気なく振り返ってみると友紀が立っていた。 「あ……」 「ん……? ああ、あなた……そうそう。谷川さん」 「あ、はい……」 「よかったぁ。人の顔覚えるのは得意な方なんだけど合っててよかった」 「(きゅーん……)」 白い歯をきらんと見せて笑う顔は里奈の心臓に矢を打ち込んだらしい。 (声と合わせて笑顔が素敵なんてもう……もうもう……っ!) 頬だけでなく顔全部の温度が上昇するのがわかる。 鞄を持ってない左手で頬を押さえて、落ち着こうとするがうまくいかない。 緊張して里奈はあまり喋れなくなった。 (いろいろ聞くチャンスなのに~~) 声を聞きたい一心で話しかける内容を考えると、昨日の朝の一件のお礼をきちんと言おうと思い立った。
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