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「あ! あの……っ」
「うん?」
「昨日の朝、バスに……間に合わせてくださって、あ、ありがとうございました!」
腰を90度近く曲げてお辞儀をする里奈の耳に困惑した雰囲気の声が届いた。
顔を上げて、友紀を見る。
「バス……バス…………ああっ!」
ポンと手を打つ友紀は思い出したようだ。
「それ、私じゃなくて妹だわ」
「え?…………松永先生じゃ、ない?」
「うん。昨日、妹から話聞いたよ。バス停まで必死に走ってくるのが見えて思わず応援しちゃったって言ってた」
「え?……だって声が……」
(この私が聞き間違うなんて……)
今度は里奈が困惑した。
「声?」
「こ、声が同じ……」
「まあそうだろうね。双子だから」
「双子?」
「そ。一卵性の双子。見目もほぼ同じ」
「双子……」
里奈は口元に拳をあてて黙りこんだ。
(一卵性なら確かに……似ててもおかしくない)
しかし腑に落ちない。
自分の耳が確実に昨日の朝の人は友紀の声だと認識している。だとすれば、どうして妹だと主張するのか。
(妹さんの声を聞けば、違いがわかるはず……直接お礼を言いたいから、と強引にお願いすれば━━━)
「あの……」
「あ、バスきた」
友紀の視線の先に合わせれば、確かにバスが来ている。
里奈の利用する路線バスだった。
(あ……)
「谷川さんはこのバスかな?」
「あ……はい」
「そっか。じゃあ気を付けて帰ってね」
「……はい」
バスに乗り込んで空いている座席に座る。
窓の外で友紀が自分に手を振ってくれていた。
眉根を寄せてペコリと頭を下げた里奈はモヤモヤした気持ちを抱えたまま帰宅した。
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