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好きな声のはずなのに
(毎日聞けるなんて、耳福なはずなのに……)
担任の菊池が正式に産休に入り、友紀が臨時の担任として来るようになった。
里奈にとってとても幸せな毎日になるはずだったが、友紀が視察にきた帰りにバス停で聞いた話が引っ掛かったままということでモヤモヤした感情が続いていた。
(好きな声を聞いて、勉強も頑張ろうと思うのに……どうしてもスッキリしないこの気持ち……)
自分の気持ちをもて余し始めた里奈は帰路につこうと重い足取りで教室を出た。
廊下を眺めながら静かに正面玄関に向かっていた里奈を後ろから呼び止める声があった。
振り向かなくても誰かわかる。
「谷川さん、ちょっといいかな?」
「……はい」
上がらないテンションに複雑な思いを抱えて里奈は振り返った。
「急にごめんね」
「いいえ……」
「あの……何かあった?」
「え……?」
聞いた友紀の顔は心配そうな表情をしていた。
(なに……?)
問われていることの意味がわからずにキョトンとした里奈に苦笑して、友紀は続けた。
「なんか、ずっと元気がないような気がするんだよね。……ああ、気のせいならいいんだけど」
「あ……えと……」
(心配してくれるなんて……)
自分を慮ってくれる友紀をじっと見つめる里奈は、聞くなら今かも、と拳を固める。
「言いたくないなら無理には聞かないけど、何か心配事でもあるのかな、って思って……」
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