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苦しさに顎が出る。
引かれた手の勢いに飲まれるとバスのステップを踏みつけることもないまま体がバスに乗った。
「!?……?」
酸素を求めて喘いでしまう呼吸の下、バスの振動を感じエア音とともに里奈の後ろで折戸が閉まる。
「あ…あれ…?」
自分を包んでいる冷たいものが目に入った。
誰かの手だ。
(ん…? 誰…?)
全力ダッシュをしたおかげで体が熱い。
誰かの手は心地よかったが、誰だかわからない以上離すしかない。
とにかくこの手が自分をバスに乗せてくれたことだけは理解できた。
「あ…あの…ありがとう…ございます…」
「間に合ってよかったですね」
ハスキーボイスが耳に届く。
「はい…っ」
視線を上げると、キャップを目深に被っていて顔が確認できない人と手を繋いでいた。
「(冷たいけど)…きれいな白い手…」
「え?」
「あ…ごめんなさいっ」
里奈は小声で謝るとボーッと見つめていた手を慌てて離す。
心がだだ漏れていたようだが相手にははっきり聞こえてはいなかったようだ。
里奈に軽く頭を下げると、後部座席へ移動して腰を下ろした。
里奈は視線を外せないまま、つり革を掴んでじっと彼の人を見つめていた。
(ハスキーだけど耳に心地いい掠れた感じの声だったなぁ~)
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