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男はその様子を見て、あぁそうだったと思い出した。
くわえていた暇潰しの煙草を砂で消し、吸い殻をポケットへとしまった。
「それから何度か、夜の海に来るようになったのか?」
「……うん。二人が喧嘩をした日、二人に理不尽に怒られた日、二人が弟にだけ優しくしていた日。
──両親が離婚した日も」
少年は空を見る。月のない、真っ暗な空。
小さな星を大切そうに見つめて、言葉を綴る。
「海に行く度に、怒られてたんだ。
『夜は危ないんだから外に出るんじゃない』『お兄ちゃんなんだから言うことを聞きなさい』って。
『あなたがそんなだから、私の育て方が悪かったって言われるのよ』って、喧嘩の火種にもなってたけど……それでも、僕にとっては大事な居場所なんだ」
男は苦虫を噛み潰した顔で、吐き捨てた。
「……勝手なもんだな。親の都合を子供に押し付けるだなんて、子供よりガキじゃねぇか。
──まぁ親は放っとくとして、だ。それで坊っちゃんは、海がお気に入りなわけだ」
少年は小さな星の明かりを指差し、小さく笑った。
「うん。ほら、綺麗にゆする波の音。どこまでも広がる、大きな星空。向かいに見える、終わらない黒い海。
何でだかまではわからないけど、すっごく落ち着くんだ」
「俺は家から海までが遠くて、そんなに来ることはなかったなぁ。
けどこうして風情に浸ってみると、確かに悪くないもんだ。
……ま、何にしても落ち着ける場所があるってのはいい事だ」
男は後ろに倒れ、後頭部で腕を組んだ。
これからの本題こそ、程よくリラックスしなければならない。
「──それで、今日ここに来たのは何でだ?」
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