あのよに

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呼吸の落ち着いた少年は、真っ赤な目で夜空を見つめた。 小さな星の光が、その瞳に映る。 「僕は、父さんを……刺した。 父さんは僕が何を言っても、弟を殴った。僕が腕を引っ張って止めても、投げ飛ばされた。 その時、近くに包丁があったんだ。 ……だから、僕は……」 きつく握っていた手を開くと、赤く染まっていた。洗っても消えない、怒りの色。 少年はその色を、汚いと思った。 「なるほどな。坊っちゃんの事情は大体わかったぜ」 男は少年の頭へ手を乗せ、髪をわしゃわしゃと不器用に撫でた。 今まで一度も見せなかった、くしゃくしゃな笑顔を向けた。 「──よく頑張ったよ、お前さんは」 少年は言葉に詰まった。 「……なんで? だって、僕は、悪いことをしたんだよ?」 「あぁ、そうとも。悪いことをした……それは事実だ。 けどそれだって、父親から酷い目に遭いながら、その状況を打破しようとしたんだ。 弟を守るため、お前さんなりに必死に考えて動いたことだ。 結果としちゃぁよくないことだが、お前は今まで耐えてきた。変えるための行動もした。お前なりに考えて、それなりの努力はしてきたんだろうよ」 少年の問いに正しく答えるためには、まだ少年の記憶が足りない。 男は先程とは打って変わって、鷹のように鋭い瞳で、黒い海を睨んだ。 「──それに、まだ続きがあるはずだ。思い出したくもないだろうがな。 その後の事を思い出しな。お前は、なぜここにいる?」
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