2人が本棚に入れています
本棚に追加
呼吸の落ち着いた少年は、真っ赤な目で夜空を見つめた。
小さな星の光が、その瞳に映る。
「僕は、父さんを……刺した。
父さんは僕が何を言っても、弟を殴った。僕が腕を引っ張って止めても、投げ飛ばされた。
その時、近くに包丁があったんだ。 ……だから、僕は……」
きつく握っていた手を開くと、赤く染まっていた。洗っても消えない、怒りの色。
少年はその色を、汚いと思った。
「なるほどな。坊っちゃんの事情は大体わかったぜ」
男は少年の頭へ手を乗せ、髪をわしゃわしゃと不器用に撫でた。
今まで一度も見せなかった、くしゃくしゃな笑顔を向けた。
「──よく頑張ったよ、お前さんは」
少年は言葉に詰まった。
「……なんで? だって、僕は、悪いことをしたんだよ?」
「あぁ、そうとも。悪いことをした……それは事実だ。
けどそれだって、父親から酷い目に遭いながら、その状況を打破しようとしたんだ。
弟を守るため、お前さんなりに必死に考えて動いたことだ。
結果としちゃぁよくないことだが、お前は今まで耐えてきた。変えるための行動もした。お前なりに考えて、それなりの努力はしてきたんだろうよ」
少年の問いに正しく答えるためには、まだ少年の記憶が足りない。
男は先程とは打って変わって、鷹のように鋭い瞳で、黒い海を睨んだ。
「──それに、まだ続きがあるはずだ。思い出したくもないだろうがな。
その後の事を思い出しな。お前は、なぜここにいる?」
最初のコメントを投稿しよう!