あのよに

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しばらくして落ち着いた少年は、もう一度夜空を見上げた。 「……なんとなく、わかった気がする。 僕がいる、この場所のこと」 吐き出しても脱水にならないこと。小さな星は空にあるのに、大きな月は水面にしか映っていないこと。大好きだった海は暗く映り、海から離れて座る砂浜がとても落ち着く理由。 ──全て、少年の心だった。逃げられる砂浜に、昔は好きだった黒い海の父。綺麗な星の弟に、もう会えない月の母親。 だが、だとするならば。 「頭がいいじゃねぇか、坊主。全員がお前みたいだったら、俺みたいな仕事は要らねぇのにな」 隣で笑うこの男は、何なのだろうか。 そう思ってすぐ、この男が現れたのはどこからでもなかったことを思い出す。 「だけどな、親にとっての『いい子』で居続ける必要はねぇんだからな。子供の内に、バカしておきな」 きっとこうして気付かせる事が、単なる話し相手になることが、この男のいる意味なのだろう。 天使でもなく死神でもなく、ただの隣人なのだろう。 「──そろそろ戻らなきゃ。きっと弟が待ってる。 ありがとう、おじさん。元気でね」 少年は服についた砂を払って立ち上がり、男に初めて笑って見せた。 その笑顔を合図に、夜が更けていく。 差し込む朝日にかき消されながら、男は笑ってこう言った。 「おう。こんな所、二度と来るなよ」
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