私立探偵事務所での生活

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 ほどなくして、俺達一行はケットビス地区に辿り着いた。この辺りは商工業地区とは違い、住宅用に区画整備されている地域だった。家庭用の食料品や日用雑貨を販売している露店の後ろには、レンガや木造造りの家々が規則正しく立ち並んでいる。前世の記憶だが、高校の修学旅行で行ったハウステンボスを思い出す。  ケットビスに到着する頃には、きれいな夕暮れを見れるような時間になっていた。昼に動き出さない事は確認済みだったので、頃合いとしては丁度いい。 「それで。ここからはどうする、少年?」 「実はエサや罠で捕獲するのは試したんですが、軒並み失敗しまして…」 「いいじゃないか。失敗のデータは成功のデータよりも価値があるものだ」 「それで、古典的な方法なのですが…人海戦術を使えればなと」 「人海戦術?」  俺は持ってきた地図を広げて見せた。被害状況や目撃証言から、三匹の鎌鼬は一定の範囲内に留まっていることが予測されていたので、それを赤くマーキングしてある。 「はい。全員でケットビスを巡回して、騒ぎが出たところに僕が駆けつけて捕獲します。古典的ですけれど、ようやく僕と一緒にウィアード退治に駆り出してくれる人ができたので」 「しかし、ウィアードには触れることができぬタイプもおると聞いているぞ。見つけたとして、もしそうだったらどうするのだ?」 「あ、そこは大丈夫です。僕はウィアードに触れるので」 「「え!?」」  あ、しまった……。  つい何の気なしに口にしてしまった。俺は蟹坊主に身体を貸与して事件を解決できることがほとんどだったから忘れていた。ウィアードの中には確かに生身じゃ触れられない奴もいるし、基本的に魔法は効かないんだった。 「い、一体どうやって?」 「それは・・・」  どうしよう、説明するか? サーシャさんには一回見せているし。いや、でもどうせ見せるんなら鎌鼬を捕まえる時でも一緒か。時間の無駄を考えたら、そっちの方がいい気がする。 「それは今はまだ秘密という事で。けど必ず説明しますから」 「わかりました。とにかく今はケットビスに潜伏しているウィアードの対処を優先しましょう」 「それで道中、皆さんの特技などを聞かせてもらったので考えたんですが・・・」  俺は道中の移動時間を利用して、五人の特技や扱える魔法の色なんかを教えてもらっていた。それと鎌鼬の行動範囲を踏まえて、一つの作戦を考えていた。尤も大雑把すぎる作戦だが。  内容は至極簡単。  サーシャさんは常に俺と共に行動をしてもらい、他のメンバーは特技を活かして鎌鼬を捜索してもらう。見つけ次第、魔法か何かで空に合図を出してもらい、サーシャさんに現場まで運んでもらうというものだ。聞けばハヴァさんとタネモネさんも飛ぶことはできるそうなのだが、人ひとりを運ぶほどの飛行能力ではないらしい。  鎌鼬は出没頻度が著しく高まっている。確率的には今日出現する事はほぼ確実だった。今までは出来なかったが、六人もいればマーキングしたエリアを巡回して追い詰めることができるはず。 「という具合でお願いします」  俺は穴だらけの作戦を提示することが少し憚られたが、返ってきた返事はとても頼もしいモノだった。 「お任せください。情報収集は私達『ハバッカス社』の最も得意とする分野でございます」 「うむ、我もだ。『タールポーネ局』の一員として、こういうことは金がなくなって身を隠す債務者を探すので慣れておる」 「私も『ヤウェンチカ大学校』で、研究室から逃げた実験動物を捕まえるので慣れてるから」  いや、アレだ。良く聞けば頼もしいというよりも物騒だった。  普段、どういうギルド生活送ってんだろう…?  そんな事を考えていると、ラトネッカリさんが全員にボールペンサイズくらいの黒い筒を配り出した。 「じゃあ、見つけたらこれを使ってくれたまえ」 「これは?」 「これを押すと上に色のついた煙が発射される。光るから夜でも目立つだろう。まあ単純なおもちゃだけど」 「よくこんなの持ってましたね」 「いや。ここまで来る途中にボクが作った」 「え。すごい」  俺が素直に褒めると、ラトネッカリさんはこれでもかというドヤ顔を披露してきた。 「ふふふ。いいよ、もっと褒めてくれ」  すると、何故か対抗意識を燃やしたヤーリンが俺の手を力強く握って、宣言するかのように言ってきた。 「私も絶対、役に立って見せるからね!」 「うん。けど、絶対に無理はしないで」
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