ウィアード対策室での生活

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 見事に外堀を埋められて引くに引けない状況に立たされてしまった。けれども、諍い合いは止められたし、俺が手綱を握って事を進められるならそれに越したことはない気がする。ギルドの誰かに任せようものなら、また面倒くさいことが起こりそうだし、そもそも誰に仕切らせるかを決めさせようと思ったら、更に半日は掛かるような雰囲気だし。 「じゃあ各ギルドの代表一名が、そこの部屋に集まってください」 「おい、なんで一人だけなんだよ」  すかさずヤクザとマフィアの混成体から文句が飛んでくる。怖い。 「部屋が狭いですし、人数が多いとケンカになりやすいでしょ」 「ちっ」  代表の選抜にはまるで時間は掛からなかった。予想していた通り、十の各ギルドにはリーダーがおり、それに従って今日の発足に集まっているらしい。残念ながらイレブンは俺一人だけなので、多分に浮いていた。それでもサーシャさんとラトネッカリとかいうスライム女がいてくれたから、顔見知りがゼロという状況は回避できていたので多少は心持ちが楽だった。  やがてテーブルとイスを並べると、簡単な円卓会議の場が作られた。やはりここでも種族はバラバラだし、踏ん反り返ったり、姿勢正しく座ったり、欠伸をしたり、俺を睨みつけてきたりと十人十色の状況だった。  準備が整ったからさっさと始めろというリクエストがあったので、それに応えて発する。が、一つだけ議席が空いているのが気になった。 「では始めますけど・・・『ハバッカス社』の方は?」 「あ、気にしなくていいよ、あそこのギルドは」 「そういう訳にも・・・」 「いいんだよ。姿がなくとも見てるし、聞いている。どこにでもいるし、どこにもいない。そういうギルドだ」  ヱデンキアにおいてのいわゆるマスメディアにあたる部分を担当しているギルド、というくらいしか『ハバッカス社』についての情報がない為、黙ってそれに従うことにした。 「では、こういう場合のセオリーに則って自己紹介から始めましょうか?」 「それも必要ない。ここにいる連中は嫌になるほど知っているし、全員がギルドのある程度の役職についている。お前だけがやればいいさ。俺達の事は後から調べておけ」 「では簡単に」  まあ、ギルドの垣根を超えるという前代未聞の機関の発足なのだから、各ギルドから名うての人員が派遣されてきているとしても不思議じゃない。というか、普通はそうするだろう。ともすればここにいる全員がそれぞれのギルドで一目置かれている人材という事になる。互いの事を知っていたとして何も不思議はない。むしろ、俺が勉強不足なのだ。それを指摘されなかっただけでも感謝しておこう。 「俺はヲルカ・ヲセットと言います。さっきも言いましたがイレブンで、皆さんのようにギルドには属していません。ヤウェンチカ大学校の第八区中等部を今年卒業しました。卒業の際にこちらの『ウィアード対策室』発足のメンバーになることを強く推奨されたので、本日こちらに伺いました。よろしくお願いします」 「中等部を今年卒業?」 「じゃあ、今いくつだ?」 「十五ですね」  ヲルカ・ヲセットとしてはであるが。 「ご立派なこって」 「では皆さんの事は後で確認を取らせてもらいます」  不勉強ですみません、と付け足して一応は角が立たないようにギルドの面子を立てておいた。 「次は・・・早速ですが『ウィアード対策室』発足について各ギルドの意向を確認させてもらって・・・」 『その前に一ついいでしょうか?』 「はい、どうぞ・・・・・・ん?」  全員の顔が見える位置に立っていたはずなのに、誰の口も動いてはいなかった。そもそも机の方ではなく、壁から声が聞こえた様な気がした。  それは卓を囲っていたギルドのメンバーも同じようで、俺と同じ疑問を誰かが口にした。 「今、誰が言った?」 「私達です」  再び壁から声が聞こえた。今度ははっきりとわかる。全員が声のした方を怪訝そうな顔で見つめていると、すうっと半透明の少女が壁をすり抜けてて現れた。
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