今までの努力

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今までの努力

俺はまずいと思った。 彼女は俺の記憶を全て見たみたいに、自分のことのように全てを話していた。 いや、本当にまずいぞ!? なぜ彼女は俺の記憶を知っているんだ⁈ まさか俺の監視役で未来から来たのか? 俺の成績があまりにも悪いから切り捨てに来たのか? どちらにせよ、 このままでは未来に帰れなくなるかもしれない。 俺の頭の中はぐちゃぐちゃと新聞紙を丸めるように情報が交錯して思考の収集がつかなくなっていった。 どんどん不安になって、こちらをじっと見つめる彼女がさらに俺を追い詰めているようだった。 俺の顔がどんどん青ざめていくのを感じた。 今までの努力が消えてしまうかもしれない。 「大丈夫よ。誰にも言わないわ。 未来にも知られることはないわよ。 そもそもそんなものはないもの。」 彼女は俺の隣の席に腰かけながら俺の顔を見て言った。相変わらず無表情だけど、少し優しい声だった。 「ど、どういうこと? 君は何者?誰なの?」 彼女は視線を俺から離して、座っている前の方向を見た。遠くをぼんやりと眺めるようにして。 「私もあんたと同じだった。過去から来たって…思わされていたの。」 「え…? 一体どういうこと…思わされていたって?」 俺はいろいろと動揺を隠しきれないで聞いた。 彼女のつやつやと光るストレートヘアに目が行く。 胸元で切りそろえられたその髪は彼女の白い肌と整った顔によく似合っていた。 「全て嘘なのよ。あんたもバカみたいだから教えてあげるわ。全て植え付けられた嘘の記憶なのよ。」 彼女は視線を変えないまま、少し強く言った。 髪が揺れる。 「君は何を言っているんだ?俺は未来から送られてきた記憶がちゃんとある…。」
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