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口が悪い。
「どうせ丸眼鏡の「おじじ」にでしょ?」
彼女は虫を見たような顔で俺を見た。
呑気にきれいな顔が台無しだと思ってしまった。
「おじじのことを知ってるの?」
おじじとは、俺が未来でお世話になっていた研究者の1人である。彼の開発のおかげで俺は過去に来ているのだ。
「みんな知っているわよ。同じ記憶が植え付けられているんだもの。全く、記憶の更新ぐらいしなさいよ、あのクソおやじ。」
彼女は少しイライラしていた。
記憶とか植え付けるとか何を言っているのかよくわからない。
そして彼女は思いの外、口が悪かった。
相変わらず歪めた顔で俺に言った。
「おじじはこの時代の人間よ。ただの脳科学者。」
「おじじはタイムマシンの開発者だよ、
未来では有名人じゃないか。」
「あんた本当におバカさんね!」
急に立ち上がって、大きな声で言った。
さっきまでは図書室だからか声量を抑えて話していたが、もう周囲の目なんか気にしちゃいなかった。
「あんたは勉強があまりにもできないから勉強させるためにそういう記憶を植え付けられたのよ!
まだ気付かない?
依頼者はきっとあんたのご両親よ。
この時代のあんたの家族はあんたにやけに優しくしてくれてない?あんたを騙しているからね!」
少し悲しそうな顔で、彼女は言った。
俺は彼女の言葉を理解するまで少し時間がかかった。そして多分、傷ついた顔をしたんだと思う。
彼女は俺の顔を見て、
一旦口を継ぐってから視線を逸らした。
俺は俯く彼女から目を逸らさないでいた。
彼女の言葉がじわじわと俺の体に染み込んでくるようで、鉛が流れ込むみたいになった。
俺の気持ちとは対照的に
彼女の奥の窓には夕方の心地よい日差しが見えた。
とても美しかった。
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