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あれは年が明けてすぐの頃だった。萌は婚約者である涼くんの実家に、泊まりがけで遊びに出かけた。その晩珍しく私に電話をかけてきたのだ。
『結婚ってなんだか大変』
「どうかしたの?」
『親がいないって良くないことなのかなあ?』
「そんなわけないよ。涼くんのご家族に何か言われたの?」
『ううん、そうじゃないんだけどさぁ……』
萌はそれ以上は言葉を濁してしまい、『初めてのお家で緊張しちゃったみたいなんだ』と笑った。
父は私たちが幼い頃に借金だけを残して蒸発し、女手一つで育ててくれた母も病気を患い5年前に他界した。
彼の実家は田舎の古くから続く家なんだと聞いていたけれど、そういう私たちの事情が歓迎されていないのかもしれない。
「気にしちゃダメよ。結婚は2人の間の事なんだし」
そう言った私は余程甘くて世間知らずだったのだろう。結局そこから2人の関係はぎくしゃくとしてしまい、あっけなく終わりを迎えた。
招待状を送っていなかったのが幸いだったけれど、縁が無かったんだって、そう簡単に割り切れないのは、幸福だった2人の姿と、目の前で酷く憔悴した妹を見ていたからだ。
私には為す術がなくて、ただ側にいてやることしかできなかった。励ましも希望を抱かせる言葉も役には立たず、妹にとって癒やしとなったのは、飼い猫のココと少しずつ過ぎ去ってくれる時間だけだった。
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