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1.里奈ちゃん
幼馴染の里奈は意地悪だった。彼女の家はお金持ちでいつも好きなものを買ってもらえるくせにすぐに他人の物を欲しがる。その子の持っている物が欲しい、というよりも自分以外の人が幸せになるのが許せない、という感じだったように思う。そしてその意地悪は年齢が上がるにつれ悪質に、そして手口は巧妙になっていった。
「ねえねえ真紀ちゃん、美里ちゃんって最近ちょっと調子に乗ってると思わない? 学校にあんな派手なリボンしてきちゃってさ。あ、そういえばあの子この前真紀ちゃんのことゴリラみたいって言ってたのよ。ひどいわよねぇ」
「真理ちゃん、真理ちゃん、美里ちゃんが今日着てるお洋服ってさ、この前真理ちゃんが欲しいって言ってたやつに似てない? 真似しちゃってイヤね」
こうして彼女は決していじめの首謀者となることはなく、常に他人を使って気に入らない相手――それは主に私なのだが――を攻撃するのだった。特にひどかったのが給食の時。私は当時給食で出されるカレーが大好きだった。それを知った里奈は私がよそ見をしている隙にカレーに牛乳を入れたり、ひどい時には消しゴムのカスなんかを入れてきた。これももちろん自分でやるのではない。里奈が私の注意を引き、視線がそちらを向いた瞬間、別の子にやらせるのだ。親や先生に言ったところでどうせ解決なんかしない。怒られるのは実際に悪戯をした子だけだろう。里奈は唆しただけ。共犯者ですらないと主張するに決まってる。私は泣き寝入りするしかなかった。
あれは小学五年生の夏休み。私は母から買ってもらったお気に入りの真っ赤なサンダルを履いて公園にいた。友達と遊ぶ約束をしていたのだ。だが待てどくらせど友達は来ない。段々と悲しい気持ちになり私は公園のベンチから立ち上がった。すると背後から甲高い声が響く。聞き覚えのあるこの声、もしかして。
「あらー? 美里ちゃん? なぁにしてんの?」
振り返ると案の定そこには里奈とその取り巻き連中がいた。私が約束していた友達もその中にいてばつの悪そうな顔をしている。ああ、そういうことかと私は彼女らを無視して公園を出た。平気な顔をしていたのが気に入らなかったのだろう。背後から里奈のキーキー声が聞こえた。二学期になったら無視されのかも、そう考えると憂鬱になる。だがその翌日、意外なことに里奈から電話がかかってきた。
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