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3.共犯者
「美里ちゃん、里奈から意地悪されてたりしないかい?」
信号待ちで車が止まると、おじさんは突然こんなことを言い出した。うまくごまかせず口ごもる。
「やっばりか」
おじさんは悲しそうに俯いた。
「里奈はどうも素直じゃなくてね。意地悪するのがコミュニケーションだと思ってる節がある」
里奈のことに興味なんてなかったが私は黙っておじさんの話を聞いていた。
「里奈はね、私の本当の子供じゃないんだ」
突然の深刻な話に心臓がバクバクする。子供の私がこんな話を聞いてしまっていいのだろうか。信号が青になり再び車は走り出す。
「ふうん、そうなんだ」
私は冷静を装いそう答えた。
「里奈も緋沙子も……ああ緋沙子というのは里奈の母さんなんだけどね。あいつらはそっくりでさ。いつも自分らの思い通りにしちまう」
何だかおじさんは怒っているみたいだった。それなら里奈のこと言いつけてやる、そう思った私はそっと呟いた。
「里奈ちゃんね、いつも誰かに私のこといじめさせるの。里奈ちゃんは直接しない。だから里奈ちゃんは先生から怒られないんだ」
「そっか。ごめんね。じゃあそんな悪い子は懲らしめてやらないといけないね。美里ちゃんなら悪いやつ、どうする?」
私はしばらく考えた後で一言こう答えた。
――埋めちゃう。
おそらく数日前に見たテレビドラマの影響だろう。そのドラマで殺人犯は共犯者と共に死体を埋めるために穴を掘っていた。邪魔者は埋めてしまえ、と口々に言いながら。私とおじさんの間にしばし沈黙が落ちる。おじさんの真剣な横顔に私は少し不安になった。
(本当に埋めちゃうのかな?)
でも同時にこうも思う。いいじゃん埋めちゃえば、と。だが、そんな私の想いを知ってか知らずかおじさんは不意に笑い出した。
「埋める、か。そりゃいいや」
私は少しホッとしたようなガッカリしたような気分で曖昧に笑う。
「さ、着いたよ。美里ちゃんのサンダルはちゃんと里奈から取り返しておくから。埋める前に、ね」
おどけた仕草で片目を瞑るおじさんを見て私はケタケタと笑う
「わかったわ。ケーサツには黙っておいてあげる。私たち、キョーハンシャですからね」
腰に手をあて、テレビで覚えたばかりの言葉を口にする私を見ておじさんも大いに笑った。
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