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「そうやった、お前には俺の力が効かんのやった。こりゃ失礼、つい癖で」
「癖でって……」
呆然とする青光に、銀河はぺろっと舌を出した。
そこへ会計を終えた春風が駆け寄ってきて、銀河からかばうように青光の肩を抱いた。
「こらこらこら、なにしれっと甥の財布を盗もうとしているんだ、きみは!」
「いやぁ、すんませんね」
「笑って誤魔化すんじゃない」
「はぁい。でも、甥言われても、いま会ったばっかりでしょ。赤の他人から顔見知りに昇格したくらいですやん。血縁者やからってそう信用できるもんなんです?」
銀河は悪びれることなく、毒々しく口の端をあげた。
春風は困ったように笑った。
「仕事には誠実な男だと思ったが……」
「命を奪うわけやないでしょ? 大袈裟やなぁ」
「立派な犯罪だ。だが、これからは通用しないぞ」
「そうでしょうね、春風さんみたいな守り神もおるし、こいつは俺の力が効かんから」
「ちがう。きみはこれから俺たちを知ることになる。信頼した相手に、同じことはできなくなると言いたいんだ」
「はあ、精々頑張ってくださいね」
銀河は信じていないように気のない返事をした。
青光は苦笑した。
「そうですね、銀河さんの言うことも一理あります」
「青光?」
春風がおどろいたように青光を見下ろした。銀河は意外そうに笑った。
「せやろ?」
「でも……血縁者というだけで信用できないとしても、俺はあなたに会えてうれしかった」
「は?」
「その、いままで本当のことなんて何もなかったけれど、あなたは本当に俺の叔父にあたる人だから」
照れくさそうに話す青光に、銀河の顔から笑みが消え失せた。暗い瞳には、燃えあがるような怒りの色が浮かんでいた。
その乾いた唇から「だぼか」と品のない、濁った罵りの方言が飛び出した。
「なんやねんお前、うれしいわけないやろが!」
「銀河さん?」
銀河の豹変ぶりにおどろく青光と春風に、銀河は背中を向けて舌打ちをした。
「こんなろくでなしの叔父に会えて喜ぶなや……失望するところやろ」
銀河の背中が震えている。いままで毒々しい笑みで隠されていた本音がむきだしになっているように見えたが、そこに触れる権利は青光にはない。
自分が嫌いだからこそ、自分を傷つけてしまう。あえて罪を重ねてしまう。愛し方も愛され方も知らないのだから、自分と他人を傷つける生き方しかできないのだ。
銀河の姿に、看取り屋に来るまで孤独だった自分の姿が重なった気がした。
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