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「そういえば、どうして最初に会った時は口調を変えていたんですか」
春風はその設定を忘れていたらしく、恥ずかしそうに長い胴を揺らした。
「厳格なイメージを持ってもらった方がいいかと思ってな。俺アホだし、青吉にいつも守り神らしくしなさいって笑われていたから」
青吉との思い出を語る春風は嬉しそうで、胸が温かくなった。
「じゃあ今更取り繕っても仕方ないな! これからは同じ一族の仲間だから、きみも俺を敬称なしで呼んでくれ。畏まって話す必要だってない」
「い、いきなりはちょっと」
「うんうん、少しずつでいいから! ほら、そうと決まれば契約だ。新しい名を授ける儀式を経て、きみは晴れて看取り屋になれる」
「新しい名を?」
なぜ新しい名前をつける必要があるのか、その疑問に応えるように春風はうなずいて、
「色の一族のしきたりだな。色の一族は象徴する色を名前に入れるんだ。ついておいで」
上機嫌な様子の春風について行くと、さきほど春風がいた部屋に案内された。
春風は口で器用に桐箪笥の抽斗を引くと、中から鮮やかな青の羽織を取り出した。
「これがきみの羽織だ。青吉がここに来る後継者のために用意していたんだ」
「青吉さんが」
光はそこで初めて、写真立ての中の青吉と対面した。
黒い着物に青い羽織姿の品の良い初老の男性が、この屋敷の門の前に立っている姿が写っている。
若い頃はさぞ美男子と騒がれたであろう整った顔立ちには微笑みが浮かんでいた。
その隣には、青吉を守るように春風が寄り添っている。
「羽織ってごらん」
光は羽織を用意してくれた写真の青吉に一礼して、真新しい羽織に袖を通した。
不思議と、自然の中に立っているような爽やかな香りがした。
「うんうん、似合っているじゃないか!」
春風に褒められて、光は頬が熱くなった。
「さあ、契約を交わそう」
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