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「ん? 何か、甘ったるいような臭いがするような」
「しまった。何か入って来てしまったな」
春風がそっと襖を開くと、廊下にはびっしりと枯れた植物が広がっていた。
「な、なんだこれ!」
「あまり顔を近づけすぎるなよ。その植物から毒を感じる」
「毒!?」
その時、右手側の丁字路となっている廊下を滑るようにして何かが横切った。
それが黒い人型に見えて、青光の背筋に寒いものが走った。
「な、なにかいますよ」
「白雲の置き土産かもな。忙しさにかまけて屋敷の布を連続で使っていたから、結界の意味がなくなってしまったな。こんな穢れを招き入れてしまうなんて」
青吉がいたら怒鳴られてた、と過去に受けた説教を思い出したらしい春風が体を震わせた。
「あれも、あやかしですか」
「あやかしそのものと言うより、あやかしの未練だ。本体は既に消滅しているが、やつの怒りや憎しみなどが残されたままになっている。祓い屋の中ではその未練を武器に使うような悪趣味なやつもいるのさ」
すべての祓い屋とは限らないだろうが、そのやり方には不快を覚えた。
「とりあえず、あいつにこれ以上屋敷をうろつかれては困る。行くぞ、青光」
「え!?」
「看取り屋の初仕事だ」
「いきなり!?」
ふたりは恐る恐ると廊下に出ると、植物を避けながら、丁字路の角までやって来た。
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