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「青光。あのあやかしに残された時間は多くない」
「残された時間、ですか」
「そうだ。負の感情に支配された未練は穢れを増加させ、放置すると人に害を及ぼすだけの存在になる。それを我々は鬼と呼んでいる」
「そうならないためには、どうすれば」
「祓ってしまうのが一番手っ取り早い」
祓うという言葉に、消すという意味を感じ取って、青光は身震いした。
それを察した春風は、真剣な眼差しで青光を見つめた。
「きみの認識は間違っていない。天色町では消し去るという意味で使われることがほとんどだ。そもそも本体は既に失われているのだから、あやかしそのものを消すわけではない。残された想いをこれ以上放置するのは得策ではないだろう」
「……はい」
「だが、ここは祓い屋ではない。旅立ちの手助けをするのが看取り屋の仕事だ」
現実的な発言を覆す春風に、青光は驚いた。
「たとえ、その行為がどれだけ無意味だと言われても、誰かが生きていた証がこうして看取り屋にやって来たと言うならば、それを看取ってやろうじゃないか」
「はい!」
春風の言葉に心が震える。
看取り屋の守り神と契約者が受け継いできた願いを、今度は自分が守っていくのだと強く意識した。
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