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金色の着物に花弁を思わせる純白の羽織姿のあやかしは、ひとつに結った長い髪を揺らし、迷子のように部屋を見渡した。
「ここは?」
柔らかく、はっきりとした声だ。
正気に戻ったのだと、青光は嬉しくて駆け寄ろうとしたが、
「どこにいるの」
何者かを探す強い眼差しに圧されて、その場で立ち止まった。
「あなたは知っているの」
「それは」
あやかしが縋るように青光に手を伸ばす。
しかし、春風の視線に怯んだのか、白く細い指が青光に触れることはなかった。
「教えてください」
「すみません、俺は」
「あのひとは、ひとりで寂しい思いをしていないでしょうか」
吐き出されたのは恨み言ではなく、相手を思いやる言葉だった。
彼女の大きな瞳は、不安そうに涙で濡れていた。
「あのひとは、ひとりで苦しんでいないでしょうか」
あやかしの姿と自分の姿が重なって、先ほどの春風の言葉がより深く胸に沁みた。
青光は自らあやかしの手をとると、穏やかに微笑んだ。
「こんなにもあなたに想われているんです。そのひとは孤独ではありませんよ」
あやかしは目を見開いて、
「本当に?」
「はい。きっとそのひとも、あなたを想っている。あなたが寂しくしていないか、苦しんでいないかと」
知りもしないのに無責任だ、と責められるかもしれない。
だからこそ、この言葉は青光の祈りだった。
左手側に控える春風が、そっと寄り添ってくれた気がした。
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