第一話 看取り屋・青の一族

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「あなたの苦しみを取り除くお手伝いをさせていただけませんか」  あやかしは少し俯いて、目蓋を閉じた。 「そう……私はもう、いないのね。ここにあるのは私の残滓」  絶望していると言うよりも、自分の中にある探し人との思い出を振り返っているように見えた。 「お願いします。もうあのひとに、心配かけさせたくないもの」  再び青光を映したその瞳に迷いはなかった。  その身を黒く染めていた穢れはほとんど消えていたが、その体からは細長い黒い煙が立ち上っていた。 「あなたのお名前は」 「キンセンカ。あのひと、スイセンと同じ名前。お願い、あのひとに伝えてください。いつまでもあなたの幸せを祈っているのだと」 「わかりました」  青光の返事に、キンセンカは満足そうに口元を綻ばせた。 「青光。祝福の言霊を」  春風に言われて、青光は戸惑った。  祝福の言葉など教わっていないからだ。 「契約すると自然に思い浮かぶものだ。きみだけの祝福の言葉を伝えてあげてほしい」  青光はもう一度キンセンカに向き直り、自分だけの祝福の言葉とは何かを黙考した。  脳裏に浮かぶのは、春の陽光と美しい春風の姿。   「我が青は春光(しゅんこう)、舞い踊る春風(しゅんぷう)さえぎるものなし」  するりと言葉がこぼれて、窓も開けていないのに柔らかい風が吹き抜けた。  青い布が一斉に翻り、幻の桜の花弁が喜びに舞っているように見えた。 「綺麗ね……最期に出会えた優しい人が、あなたでよかった」  キンセンカは最期に胸の前で両手を合わせると、ぽつりと涙を一粒流して、光の粒子となって消えた。
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