136人が本棚に入れています
本棚に追加
キンセンカの座っていた場所には、花をあしらった簪が残された。
「よくやった、青光」
春風に労われて、青光は張りつめた気を解すように深く息を吐き出した。
「これで、よかったんですよね。俺は間違っていませんか」
あやかしにかけた言葉は本心だが、やはり不安だった。
心配そうに見上げる青光に、春風は優しく目を細めた。
「キンセンカはきみに看取られて、無事に旅立てた。これでよかったんだ」
「それなら、よかったです」
青光はほっと胸を撫で下ろし、あやかしが残した簪に視線を落とす。
「なるほど、スイセンと同じか。キンセンカとはキク科の方ではなく、スイセンのことだな」
簪を眺めていた春風が自己完結したように呟いた。
「キンセンカに種類があるってことですか」
「キク科ならポットマリーゴールドをそう呼ぶ。だが、この簪の花はスイセンだろう」
促されて、青光は簪を手に取った。
水晶のような透明感のある質感の白い花は、たしかにスイセンに見える。
「真ん中にある黄色い部分を黄金の杯、つまり金盞にたとえたことから、金盞とはスイセンの別名なんだそうだ」
白い花の中央には、同じ材質の黄色の杯があった。
あのあやかしのように可憐な花だと思った。
最初のコメントを投稿しよう!