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「なぜあの男がこの簪を持っていたかを問い詰めなければならないな」
白雲のことを考えると胸に重い物が圧し掛かった。
キンセンカが命を落とした理由と、スイセンの居場所をあの男が知っていると思うと、胸がざわついた。
「この簪、俺が持っていてもいいですか。スイセンさんに会った時に渡してあげたいんです」
「あぁ、そうしよう」
手の中の簪は、まだ温もりを持っているように感じた。
「青光」
「はい」
「きみの母君を看取ってあげないか」
どきりと心臓が跳ねて、青光は春風を凝視した。
「キンセンカのように物に残された未練を看取る。それも我々の仕事だ。だから、きみの母君に繋がる物を見つけることも、ひとつの看取りになるんじゃないかと考えている」
目から鱗が落ちる思いだ。
それに、春風が自分の母のことを考えてくれたことにも胸が熱くなった。
「母さんを見つけられなくても、もしその持ち物を見つけられれば、看取ることができる」
「看取ってあげよう。きみの母君と、何よりきみのために」
春風の起こす追い風が、青光の心を突き動かした。
「やります。俺、母さんを看取ります。母さんだけじゃなく、ここを頼りにやって来るあやかしたちも」
「あぁ! よろしく頼むぞ、青光!」
春風がくるりと宙を泳いで、全身で喜びを伝えるように笑っている。
少し気が早い東風が吹き抜けた。
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